7月から8月にかけてヨーロッパ各地のトレイルを歩き周った僕らは、大西洋を渡りアメリカ・カリフォルニアへやってきた。ヨセミテ国立公園などがあるシエラネバダ山脈には数多くの美しいトレイルがあり、その中でも人気が高いのがジョンミューアトレイル(JMT)だ。北はヨセミテバレーから南はアメリカ本土最高峰のマウントホイットニーまで続く全行程210.6マイル(337キロメートル)。今回僕らはその内の3分の1程度を7日間かけて歩いた。
本記事ではトレッキング七日目のレポートをお伝えします。
(トレッキング実施日:2016年9月10日)
Day 7 概要 サンライズクリーク〜ハッピーアイル
- スタート地点: サンライズクリーク Sunrise Creek
- ゴール地点: ハッピーアイル Happy Isle
- 9時30分出発 14時30分到着
- 行動時間: 5時間00分(休憩込み)
- 距離: 約10.2マイル(約16.3キロ)
まずはリトルヨセミテを目指す
今日は最終目的地であるヨセミテバレーのハッピーアイルまでの約10.2マイル(約16.3キロ)を歩く。ほぼ全てが下りということもあり、もう何も心配は無かった。はずだった。
トレッキングポールで体重を逃がしながら、テンポよく下っていく。やがて、ヨセミテバレーのシンボル、ハーフドームが見えるようになる。山火事で黒く焼け焦げたエリアを抜け、大きな松ぼっくりが転がるエリアを抜け、ハーフドームトレイルとの分岐まで到達すると、ヨセミテバレーからハーフドームを目指して登ってくる身軽なハイカーとすれ違うようになる。
ここまで来ると気持ち的にはあと少しで、余裕を持って歩けるはずだったのだが、標高が下がるにつれ、気温が急激に上がり、水と体力をどんどん消費していった。出発時に満タンだった水も残りわずかとなってしまった。もう少し行けばリトルヨセミテバレーで、ここに行けば給水できる。そう思いながら歩き続けた。
最後の最後で水場に苦しめられる
なんとかリトルヨセミテバレーに到着したものの近くに水場を見つけることができない。記憶が定かではないが、ここから数百m先がハーフドームへの最後の水場との案内を見かけた。あと少しという思いで歩き続けたが、どういうわけかその場所がわからず、そのまま通り過ぎてしまった。トレイル沿いには大量の水が流れるマーセドリバーが見えてきたのだが、そこには川で泳ぐ若者やおじさんたちがいて、給水する気になれなかった(浄水するので問題はないのだが)。
もう少し行けば綺麗な水場があるだろう。そう思って歩きつづけた。ミストトレイルとの分岐に到達し、少し過ぎたところで休憩。ハッピーアイルまで残り約3.7マイル(約5.9キロ)。もう水はほとんどなく喉はカラカラだった。昨日、水場の確保にあれだけ苦労したのに、今日も同じ轍を踏んでしまった。ヨセミテバレーが近いのだから、たくさんのハイカーがいて、そのため水場はたくさんあるだろうという勝手な思い込みをしていた。
結局、悩んだ挙句に水浴びするおじさんがいるマーセドリバーから給水することにした。少しでも綺麗な水をと思い、おじさんよりも上流で給水。
短い距離、急な傾斜
水を飲んで喉は潤ったものの、この時点で体力的にも精神的にも相当疲れてしまっていた。判断力も鈍っていたのだろう。ここから先、ハッピーアイルまでは、そのままJMTを歩くルート(約3.7マイル)と、ミストトレイルを歩くルート(約2.6マイル)の2つがある。少しでも早くゴールにたどり着きたかった僕らは、距離の短いミストトレイルを歩くことにした。これがまた判断ミスだった。
ここから先は標高差約2,000フィート(約600メートル)を一気に下る箇所。距離が短くなれば、その分下りの傾斜が増す。ミストトレイルは、急な階段のような箇所が続き、その上ヨセミテバレー方面からネバダ滝やヴァーナル滝を目当てにたくさんのデイハイカーが登ってくるルートだった。そのため、全然テンポよく下りることができず、かなり時間がかかってしまった。普通にJMTルートを歩いた方が早かったかもしれない。
くたくたになってようやくハッピーアイルへ
ミストトレイルとJMTが再合流するとハッピーアイルまで残り約1マイル(約1.6キロ)。舗装されたトレイルを惰性で歩き続け、ゴールに到達。7日間歩ききった達成感よりも疲労感が大きかった。
兎にも角にもシャワーを浴びるべく、シャトルバスでカリービレッジへ移動。ビールやジュース、お菓子を買い、1週間ぶりのシャワーを浴びて一息ついたところで、ようやく気持ちに余裕ができ、じわじわと達成感を味わうことができた。
Day7のハイライトと改善点
<ハイライト>
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ヨセミテバレーのシンボル、ハーフドーム
半球状の岩山が森の向こうに見えてきた瞬間。一目でハーフドームとわかるその姿に、ようやくヨセミテバレーまで来た!ゴールまであと少し!という気持ちに
<改善点>
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標高差を踏まえた上でのルート選択
ショートカットのつもりでJMTルートと並行するミストトレイルを歩くことにしたが、距離が短い分、傾斜がきつく、登ってくる人も多かったため、逆に時間がかかってしまったかもしれない。ルート選択は距離だけではなく、標高差も踏まえて行うべきだと再認識・・・
歩き終えて
長く旅したヨーロッパを離れ、北半球の夏の終わりに滑り込んだジョンミューアトレイル。実はこの旅のルートを計画した当初は、北アメリカは訪れる時期とトレッキングの適期がうまく合わないため、トレッキング候補から外れていた。しかし世界のトレイルやトレッキング文化を知る上では、国立公園というシステムを作り上げたアメリカ、その中でもザノースフェイスを始めとする様々なアウトドアブランドの発祥の地でもあるカリフォルニアのトレイルを外すことはできないだろうとの考えから、最終的にジョンミューアトレイルを歩くことにした。
歩く時期やセクション、歩く上で理解しておくべきルール等の情報は、この旅を開始してから収集を始めた。パーミットの取得もそれから行った。これまでのトレッキングでは無かったような細かいルールや手続きが、正直なところ面倒くさく、準備不足のまま迫るトレッキング開始日が憂鬱だった。そしてトレッキング開始直前は、そんな準備不足の付けが回って来たような様々なトラブルがあって、無理してまで来るんじゃなかったという気持ちでいっぱいだった。
しかし、歩き始めるとこのトレイルの魅力にあっという間に取り憑かれてしまった。松ヤニの香りがする大きな針葉樹林の森、砂地のトレイルを歩くザクザクとした音と感触、透き通った水が太陽に照らされ星屑をまいたようにきらめく湖。五感に飛び込んでくる一つ一つの瞬間が、今でもすぐに思い出せるほど印象的だった。また、日々歩きたいだけ歩き気に入った場所にキャンプを張る、そして湖や小川から水を汲み、焚き火用に枯れ枝や松ぼっくりを拾う、というスタイルは新鮮で、自分たちが自然の一部に溶け込んでいくような不思議な感覚を覚えた。
最後はクタクタになってしまったが、ジョンミューアトレイルを歩いた7日間は、間違いなくこの世界のトレイルを巡る旅を語る上では外せない、大切なものとなった。
初日〜六日目のトレッキングレポートはこちら
https://trailtravelers.net/john-muir-trail1/
https://trailtravelers.net/john-muir-trail2/
https://trailtravelers.net/john-muir-trail3/
準備アクセス等のまとめ記事はこちら
https://trailtravelers.net/john-muir-trail-summary/
世界のトレイルを巡る旅の全体概要はこちら
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